マイヒーローがまた天に昇っていった。
燃える闘魂 アントニオ猪木。
世間的な逸話はあらゆるところで語られているので「私だけの」猪木さんの話をしたい。
「私だけの」とは、実は猪木さんと直接お会いした機会が1回だけある。
2001年の某月。
どうしてお会いできたかはいろいろヒミツもあるので割愛。
ある部屋の扉を開けたらソファに座った猪木さんがいた。
ニコニコしながら迎え入れてくださり、とてもとても気さくだった。
僅かだが10分少々ほど仕事上の談笑をさせていただいた。とにかく終始笑顔。
ほんのちょっとしたことで相好を崩され、よくモノマネされることがある「ハハハハ」も実際言われる。
当たり前だが身体がデカい。胸板がハンパなく厚い。
お別れする直前、こんな機会は二度と訪れるとことはないのだから心残りになってはいけないと思い切って
「猪木さん!ビンタお願いできませんでしょうか!!」
と言ってしまった。
ムッとされるのではないかと危惧をしたが全く逆で、「ハハハハ、いいよ」とニコニコの顔で応えてくださった。
そして腹にゲンコをいったん入れて、間髪入れずビンタ一閃。
ビシッというより、パーンと。加減してくれているから痛みは最小限だったが少し目が回った。
「ハハハハ、大丈夫かい?」またもニコニコ顔。
しかし、私はたしかに見た。
ビンタの直前、ほんの一瞬、あの燃える闘魂の鋭い眼光になったのだ。
そこに「アントニオ猪木」がいたのだ。
絶対にあの瞬間は忘れることはないだろう。
あの眼光に魅惑され、あの眼光に熱狂したのだから。
あまり公言したことはないが、プロレス全盛期、ご多聞にもれずプロレスに熱狂した一人。
週プロ、ゴングは毎週買った。後楽園はもちろん、ドーム大会は必ず行った。
猪木さんの引退試合興行も行った。
私の目の前にいらっしゃったニコニコした「猪木さん」と、リングの「アントニオ猪木」が同一人物であることが今でも不思議でしょうがない。
もっと信じられないことがある。
猪木さんも、アントニオ猪木も、もう存在しないということだ。
頬に残るあの感触が消えない限り、猪木さん、そしてアントニオ猪木は生きていると思っていたい。