2019年、大変お世話になった方が天国に召されました。
千葉県 君津市 フォレストパーティ峰山 小川オーナー。
ショックでした。
私たちの家族、私のキャンプライフにおいて、小川さんとの出会いは宝です。
私の指標「キャンプの宝物をさがそう」を確固たるもをできたのは小川さんがいたからこそです。
毎年送られてくる夢の国のカレンダーとお手紙が2020年にはもう来ない。
ぽっかりと心に隙間が空いた気持ちです。
※ 写真は最後にお会いした時のものです。
日本中で唯一のコンセプト「別世界」
誰もやっていない、誰もできないコンセプトを生み出した人、
それが小川さんです。
なぜそれが出来たのか。
それは小川さんが、日本一の「別世界」の創造主の一人だったからです。
小川さんでなければできないことなのです。
以下、私が某メディアで書かせていただいたものです。著書においてもその観点で書かせていただいています。
「野遊びうぃーくえんど。」 ~気軽にオートキャンプ
第20回 千葉県 フォレストパーティ峰山
夢の国と対局の「別世界」が、そこにある
筆者が長くキャンプ場を取材する中でたどり着いた一つの結論は「キャンプ場は自然そのものではない」ということです。いいかえれば「キャンプ場は自然にもっとも接する”際”に在り、かつ人が創造したクリエイティブな場所」です。
このことを強烈に印象付けてくれたのが、房総の山にある「フォレストパーティ峰山」でした。オーナーである小川さんは、なんとあの浦安にある夢の国創設プロジェクトメンバーだったという異例の経歴の持ち主。人工美の極致ともいる夢の国創設から、一転して対局である山のキャンプ場開拓へ。しかしそこには全く同じコンセプトが存在しました。
それが「別世界への誘い」という観念。日常界を離れて別世界の時間を過ごす。手法こそ違えど根本は同一です。
まずここが普通のキャンプ場と大きく異なるのは、簡単に場内へ到達できないこと。車1台しか通れない凸凹クネクネの山道を時間をかけて上がっていきます。これがもうアトラクションそのもの。クルマはいきなりタイムマシーンに。そのスリルに運転手、同乗者とも興奮しまくるでしょう。しかし決して危険ではありません。創業以来事故は一件もなし。ゆっくりと楽しみながら上がっていけば、途中途中のユーモアあるカラフルな看板たちがさらに気分を盛り上げてくれます。
場内には2か所のオートキャンプサイトと、ネイチャーサイト、コテージ群が点在しています。オートサイトはフリーサイトでしかも直火が楽しめます。近年の焚火ブームの中、直火の楽しみが意外に知られていませんからこれは絶好の機会。風景も実にワイルドで、まさしく今自分が「自然の際」にいることを実感できます。コテージ群はタイプが豊富で、しかも手ぶら可能な施設もありますからキャンプ道具がない方でも気軽に利用できます。
山の頂上付近へ登ると360℃パノラマの鉄塔があります。クリアな時は富士山、新宿新都心、スカイツリーなどが眺望できます。また夕陽が実に美しく、その時間帯にこの鉄塔に来ることをぜひお薦めします。マジックアワーのグラデーションにきっと魅惚れることでしょう。条件のいい朝であれば眼下には雲海が広がることがあります。この時にまた「ああ、ここは別世界」と実感できるはずです。
海の夢の国で人気なのは何といってもマスコットたち。ここフォレストパーティにも「生きている」マスコットがそこかしこにいます。そしてみな人懐っこい。この山の別世界では人と動物の区別なく誰もがネイチャーパーティの参加者になってしまうのです。あの「いきものがかり」のジャケット撮影場所に選ばれたのもうなずけるところです。
この週末、もうひとつの別世界へ出かけてみませんか?

そのフォレストパーティ峰山は2019年、大きな試練を受けます。
あの台風で大きな被害をを受け、別世界への道が閉ざされてしまったことです。

台風直後、私がうかがったときの様子。
こんなことになるなんて、私でさえ絶望感を感じました。
しかし、11月にキャンプ場は復活しています。営業再開。
本当によかった。

小川さんに最後にお会いできたのは昨年の10月。
数年前から体調を崩されておりとても心配していました。
特に奥様を亡くされて以降大きく体調を崩され入院をされていらっしゃった時期も長くあったそうです。
この日も決して調子が良いわけではありませんでしたが、ウィークデイということでお一人で我々を歓待してくださいました。
そして「よかったらテラスでコーヒーでも」と、小川さんご自慢の ”カフェテラス” へ招いてくださり、
楽しく歓談をしたあの時間のことはこの先一生忘れることが出来ません。
すべて手作りの房総の山々を一望できる場所。
小川さんはいつも野球帽をかぶられていました。
決して口数は多くなく、むしろ低く太い声でボソボソっと朴訥に話されます。
私は第一印象から「なんとなく立川談志」の雰囲気を感じていて、
少し猫背で下の方からしゃくって話す仕草は名人の落語家のようだと思っていました。
ときどきふと漏らすギャグを言ったあとに「ホッホッホ」と満面の笑みを浮かばれていたのも印象的です。
しかしその話の内容は常に力強く芯が通っており、見た目とは裏腹な頑固さを感じたことが多々あります。
特に「別世界」であることへの考え方は揺るぐこと全くなく、
フォレストパーティ峰山は、まさに小川さんを「創造主」としてできた場所であることを行けば行くほど感じていました。
あの日、「ちょっと部屋を見ていきませんか」と急におっしゃったのは、
今思えば何かそこに意味があった、そんな気がしてなりません。
小川さんの大きな大きなテーブルはとても雑然としていて、紙がいっぱい。
周囲の壁にはたくさんの写真が掲げてあり、それは小川さんとご家族のストーリーがひしめいています。
お子さんがまだ小さいころの写真、そしてご結婚された時の写真、娘さんからの言葉などなど。
黄色い壁に数々のカラフル写真フレーム。
時々足元をすり抜ける猫たち。
そのメッセージは伝わりました。
フォレストパーティは、私たちを招き入れてくれる「別世界」でもあったけれど、
それは小川さんご自身のための「夢の国」だったのです。
小川さんは宝を掘り当てたのですね。
この場所は思い出の場所。
ずいぶんと前のある日、私たちは「しょぼスマキャンプ」という世にも珍しいコンセプトのキャンプをしたのです。
あんなことが出来たのは後にも先にもこの日だけ。
今考えたらそれができたのはまちがいなく「別世界」にいたからです。
そして、その別世界の番人、小川さんがそこにいてくれたからです。
だれよりもショボくて、でもスマートさは失わない。
そんなキャンプをしていたとき、途中我々を圧倒したのが小川さん。
「オーナー、ぜひご一緒に」
「では用意しますから少し待ってください」
そして現れた姿に誰もが悶絶。
椅子は日本酒のケースをひっくりかえしたもの、そこに発泡スチロールのクッション、
右手にワンカップ、左手にはカラムーチョ、そして野球帽はやや斜め被り、首には手ぬぐい。
これがあの夢の国を創った方なのだから、そのショボさの極致とスマートさの極致に、
我々は「真のチャンピオン」と完全脱帽したのです。
あのユーモアこそ小川さんの真骨頂。
実はジョーダンというだけではなく、あの姿勢に「別世界」の中での立ち振る舞いがあり、
キャンプってそれでいいんだ、という奥義を見たのです。
あの日のキャンプから間違いなく私のキャンプ感は変わります。
キャンプ仲間の娘だけを連れてきたキャンプの或る日。
いまはもういない夢の国の住民たち。
小川さんよりもずっと先に旅立った初代クッキー。
いまはみな天国のお友達。
新しい住民たちもこうやって写真収まっています。
なんだろう、デジタルはデジタルでいいけど、
このアルバムというもののぬくもり。
小川さんはそれも大切にされていたように思います。
この風景に小川さんがいないことが不思議です。
けれどそれが現実。
でも小川さんの席はいつまでもこの山の頂上にあるのでしょう。
今は別世界から少し離れた「別の世界」にいらっしゃいますが、
たまには降りてきてくれるのではないか、そんな気がしてなりません。
小川さん、いずれまた逢いましょう。
ご冥福を祈りいたします。