クロアチア代表モドリッチ。
日に日に、その姿があのヨハン・クライフに見えてきていた。
サッカーにおける天才的な動きと勘所。
そしてあの攻守に渡る意味のある運動量。
背格好は違うが、顔はもう生き写しにさえ見える。
いったんモドリッチがクライフに見えてからはその後もうそうとしか見えなかった。
痩せていて、鼻筋が高く、くぼんだ眼光。
ほとんど喜怒哀楽を出さず、常に冷静。
しかし足元の熱さは全くその表情とは対照的。
広い視野、ゴール前の決定的な仕事、危険区域に必ず現れるあの直観力。
この大会でのモドリッチには、まるで天からクライフが降りてきたようだった。
西ドイツ大会、クライフのオランダはクロアチアに同じく準優勝。
あの時は大会MVP=ゴールデンボールが制定される直前で誰も選出されてはいないけれど、
あのベッケンバウアーをさえ抑えて、きっとクライフが受賞したに違いないと思う。
たいていは優勝国からMPVは出て当然だが、今回はモドリッチであったことに、
どうだろう、選出した人たちにはなにかクライフにオーバーラップしたのではないだろうか。
今回のクロアチアそのものもあの時のオランダとどこか似ている。
全員攻撃、全員守備。
あらゆる攻撃パターンを持ち、見ていて実にエキサイティング。
それまでは個人技がすごいとか、個を消してチームの結束力で勝ち上がった代表はあれど、
あの時のオランダは、全員がタレント、しかもチームとしての躍動感がある画期的なチームだった。
歴代の出場代表で最も魅力的なチームであることはいまだに変わらないと思う。
今回のクロアチアはそこまではいかないにしても、だれがいつがゴール前に現れるかわからないくらい攻撃の幅がすごかった。
モドリッチがクライフに見えただけでなく、マンジュキッチ、レビッチはあの時のまるでニースケンスやヨニー・レップのようだった。
もしキャプテン翼の翼君がこの世に存在したら、サッカースタイルだけを言えばそれはクライフであり、モドリッチのようなプレーじゃないかと思う。
クライフがフライングダッチマンと呼ばれ、それはもしかしたら「翼」君の名前のヒントではなかったか。
確か監督が「400万人しか人口がいないクロアチアがどうしてここまで来れたか。それは400万人すべてがサッカープレーヤーであり、全員が監督だからだ」と言っていた。
オランダはチームとしての「トータルフットボール」を展開したが、クロアチアは国としての「トータルフットボール」を展開したのかもしれない。
「美しく敗れる事を恥と思うな、無様に勝つことを恥と思え」
これはクライフの言葉。
モドリッチにはそれまでの重なった疲労で決勝戦では本当のパフォーマンスを出し切ったといは言い難い。
しかしまさにクライフの言のように美しく敗れた。
そしてクライフはこうも言っている。
「いくら技術に優れたスーパースターでも、その上には、勝者が、チャンピオンがいるものだ」
ゴールデンボールを受け取った時のモドリッチはニコリともしなかった。
いつものくぼんだ眼光のままだった。
彼には間違いなくクライフが宿っている。
サッカーの神はいろいろなことをしてくれる。