「はい、星が好きです」
とても小さな朴訥に発されたひと言、そしてまっすぐな目。
まるで心をえぐられるようでした。
彼女は小学校高学年くらい。
まだ夕方の設営のころに一人でふらっと現れ、天体望遠鏡をキラキラした目で見ていました。
「今日は木星が見えるかもね」
「はい」
この時も多くを発さずこの一言だけ。やはりまっすぐの目で。
私はついうっかり業務的な感じでそんなことを言ったのですけど、このシンプルな返事にドキッとしました。
あんな「かもね」などとなんで無責任なことを言ってしまったんだろうか、と。
彼女の「はい」に本当に応えることが出来るのだろうか、と。
20時からの「星空散歩」には最前列の、ちょっと遠慮がちな端っこに彼女はいました。
星の話を40分。
多くの覆った雲の中、途中木星の話をしていたときに急に光り出した一つの光。
それはまさしく木星。
彼女はまたもや目を輝かせ、軽く手を合わせていた様子がチラッと目に入りました。
終了直後みなさんの帰りがけにまたも木星が現れ、なんとか望遠鏡でその姿は見てもらえて少し安堵。
なんとなく全体が解散したあとも彼女は帰りません。
双眼鏡を片手にずっと木星の方向を向き、雲の間のかすかな光を探しています。
言葉は発さないその目はどこまでもキラキラしています。
彼女は素直にこのことを信じてくれていたのでしょう。
私は片づけをやめて、彼女に付き合うことにしました。
一緒に双眼鏡で探し、望遠鏡を向けていつでも見れる準備をして。
自分の放った言葉の義務を放棄すべきでない、と。
20分後、
「あります!あそこに」
間違いなく木星です。
どちらかと言えば物静かな彼女が興奮気味に。
彼女と二人だけで木星を待ったあの時間。
星空案内人は私ではなく、間違いなく彼女でした。
いつまでもキラキラしながら星を待つあの態度と姿勢こそ、
星空を導く人の真のカタチ。
こんなに星を観るのを楽しくしてくれるあの素直な気持ち。
彼女には私が使っている星座早見盤を渡しました。
彼女から授かった授業への御礼です。
やはりキラキラしながら早見盤を回しています。
それから30分後、10時過ぎに片づけを終えたころ、
すごく小さな声で後ろから聞こえてきたのが、おそらく歯磨きから帰ってきた彼女のひと言。
あまりに小さな声なので最初分かりませんでしたが、
よく聞くと「ありがとうございました。おやすみなさい」と言ってくれたようです。
きっときっと彼女はこの先今以上に素敵な女性になるでしょう。
キャンプと星。
まだまだ自分の中では未開発。
それでもこの日、また一つのキャンプの宝物が増えました。
キャンプも星も、私にとってはいつでも宝探しです。