「高山ーッ!」垣原さんの腹の底から絞り出すような叫びが、
後楽園ホールにその時響いた。
5月に頸椎損傷の大怪我を負った高山選手に向けた心の叫びだった。
「僕だってここまで回復できた。
高山!お前は帝王だ。
絶対に大丈夫。
お前は絶対に大丈夫だ!
(泣きながら)みんなで応援しましょう!ね、みなさん!
絶対に大丈夫だから!」
カッキーライドは垣原さんのために行われたものだ。
しかし、彼が
リングの最後に上がり叫んだのは高山選手への思いであった。
応援されている自分が、今度は自分が応援する番だ、そう思ったのかもしれない。
自分が苦しいとき、応援をし続けてくれた他でもない高山選手だから。
応援する、その気持ちが通ずることを、誰よりも知っているから、だからあの叫びをせずにはいられなかったのだろう。
本来だったらUWF戦士として高山選手はこの場に立っていたかもしれない。
「高山ーッ!」
あの振り絞る声は、
彼はこのリングに今立っている、それを
垣原さんは示したかったのだと思う。
閉会とともにリングを下り、一人一人丁寧に挨拶をする垣原さん。
体調、今日の疲れを考えればそこまでやらなくてもよかったかもしれない。
けれど垣原さんにはそんな選択肢はない。
彼はどんな人より感謝を知っている。
だからすべての人に感謝する。それを示す。彼にとっての当り前なことだ。
リングが撤去される時間になっても後を絶たないファンに一人一人丁寧な挨拶と笑顔を返していた。
面倒くさがる様子など微塵もない。
私にも「あ、SAMさん、今日は来てくれてありがとうございます」と名前まで呼んでくれて握手をしてくれた。
彼の握手はプロレスラーとは思えぬほど軽く優しい。びっくりするほど。
リングを下りれば誰よりも優しい。
だからこそリングに中で、あの熱くなれるリングの中でこそ、高山選手へ心の叫びを放ったのだと思う。
カッキーライドに来た人は、それを繋いでいかなければならない。
それが垣原さんの願いだからだ。