大学生時代、アルバイトを半端ないくらいしていて、その稼いだお金の7割は学費(自費で大学に行くと約束したので)、のころ3割は洋服と「食」に使いまくっていました。
洋服に使ったお金はその後の自分の仕事となり、そして「食」への投資はその後の人生に極めてインパクトがあったと今振り返っても自覚します。
信用してもらえないかもしれないですけれど、その時の食の投資のかなりを占めたのがフランス料理でした。
その時の親友H君と東京のフランス料理店をしらみつぶしにしたくらいです。そこには洋服も役に立っていて、いわゆる自分のトラッドベースのジャケットスタイルが出来上がったのもこの頃。
銀座レカン、ビストロサカナ座(まだ無名の頃の三国シェフ)、シェ・ヒラマツ(現レストランひらまつ)、ラ・マーレ・ド・チャヤ(あのキハチの熊谷喜八シェフがいた頃)、オー・シザーブル、ロオジエ、オーベルジュ・ド ・ブリクールなどなど、本格的レストランからビストロまでほぼ2週間に1回は必ず行ったと思います。ただ資金が豊富だったわけではないのでいわゆる「デジュネ」をねらって予約しお店でメニューを選んで楽しんでいた、そんな感じです。
前置きが長くなりました。
東京や周辺はたくさん行けても、行くにいけない、行くにいけないから深い憧れとなった場所が一つだけ。
それが三重県「志摩観光ホテル」。
ここにいらっしゃる高橋シェフの作る意味の幸フランス料理は、ネットなどないこの時代でさえフランス料理好きなら誰でも知っているそれほどのものでした。
あまりに行きたくて、行けないフラストレーションを鎮めるためにこの本を買ったくらいです。
大学生の身分でフランス料理店巡りをすることさえ贅沢であり、実際相当無理をしていたわけで、何よりも「志摩観光ホテル」に泊まるというのは清水の舞台から飛び降りるどころの話ではなく、実現はしませんでした。
その後その憧れのまま四半世紀以上が過ぎ・・・
今、志摩観光ホテルのロビーに立っています。
志摩観光ホテルといえば「夕景」
この日は少し曇ってはいましたが。
「ラ・メール ザ・クラシック」
30年待ちました。
高橋シェフは総支配人を経て現在はすでに退任。
このときは女性である樋口シェフの仕切り。
サミットの料理を提供したのも樋口シェフ。
アミューズゲル。突き出しですね。
カツオのたたき、甘夏の薬味を添えて
これはやられました。舌の記憶に鋭く残っています。
カツオのたたきがフランス料理のフィルターにかかって一気に昇華した感じです。
海の幸と茄子 レモングラス香る鮑のジュレ 冷製ヴルーテと共に
ブルーテとはブルーテソース。
これは珍しいなかなか最近会えないソースですね。
海の幸の宝石箱や~~
この言い方は冗談です(笑)
いや、実に美味しい。
食べながらニコニコしてしまうので、宝石箱という表現もそう冗談とはいえません。
伊勢海老のクリームスープ
これなのか。
これなのか。
この茶褐色に伊勢海老が閉じ込まれています。
そうか。
これ以上足しても引いてもこの料理は成り立たないのだな。
そうだったのか。
そして、
志摩産黒鮑ステーキ 二種類の香草バターソース
そうか。
そうだったのか。
鮑は多分世界で一番「調理法」を受け入れる度量のある食材。
鮑自身美味しいけれど、調理をされると無限に美味しさを増します。
私のたいしたことのない人生経験のうえで、
最も心に残った「料理」(※家庭は含まれません)の5本の指にはいる3本、
それは全部鮑を調理をしたもの。
日本橋天茂の「あわびの天ぷら」
中国飯店の「干しアワビのしょう油煮込み」
そしてこの日の「鮑のステーキ」
みな調理法が違います。和洋中も違います。
けれどどの料理も恐ろしく懐が深く、心にぐっさり刺さりました。
鮑が大好物というわけはないので、1年に1回でも5年に1回でも食する機会は構いません。
けれどもし食するのであれば、千載一遇の機会としていただきたいと思います。
メインディッシュ。
牛ヒレ肉ステーキ ボルドレーズソース
正直言うと、もう鮑のステーキでクライマックスを迎えているので、
どんな対抗馬の肉が出てもそれを上回れなかったでしょう。
ピスタチオのムースとグリオットチェリーのビスキュイ 赤い果実と共に
デザートって、それまでの料理の余韻を幕引きしてくれるからうれしいですね。
デザートの本来の意味は「食卓を片付ける」
まさに意味的にも幕引きでしょ。
コーヒーにプティガトー
ああ、余韻。
サミット時のワーキングディナーテーブルの再現。
志摩観光ホテル、通称「シマカン」
素晴らしいホテルです。
翌朝。
ラ・メールの朝食。
このクリームスープがまた美味しい。
エッグベネディクト。
30年の叶えなかった夢が実現。
いつか、そういう日 というのは来るのですね。
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