
この店がどうして無くならないのか。
なぜにこんなにもロングテールでいられるのか。
東武線西新井駅の構内にあり45年。そんじょそこらの立ち食いそばより遥かに長い歴史があり、それでいながらフォロワーが何処にもない、唯一無二の存在。
私にとっても幼年期を隣の竹ノ塚で過ごし、高校は二つ先の五反野に通い、結婚後には西新井大師に住んだだけに、30年近い身近な対象。

「西新井らーめん」
・・亭、とか、・・家、ではなく、ましてや、麺屋・・でもない。
45年前にはそんな飾り気、いや敢えて言えば虚飾はなんら必要なかったのかもしれない。


ロケーションは東武スカイツリー線西新井駅下りホーム中央。
絶対無二のトラフィック。
そして、疲れ、腹を空かせて帰宅しようとしている人たちのインサイトを刺激する、絶好のタッチポイント。

当然食券機。
もちろん以前は現金引き換え制だった。
すっかりメニューも増えたが、スタート時は確かラーメン、チャーシューメン、ワンタンメンだけだったと思う。

この厨房は男子禁制。白衣のおばちゃんというのはおそらく45年間守られているゴールデンルール。それは「給食のおじちゃん」が語彙として存在しないのと同様、「西新井ラーメンのおばちゃん」以外あり得ないと消費者に向けた徹底したイメージコントロール。
そして、この時代、安直な麺屋系では絶好にやらなくなった、平網の麺茹で上げ。
深ザルの二天なんとか落としなどというくだらぬお湯切りパフォーマンスはなく、おばちゃんの熟練した誠実な手間しかそこにはない。


何の衒いもない、シンプルな姿。

この日はチャーシューメンを奢ってみた。
このロース系のチャーシューが実によくできている。

煮卵なんて洒落てはないゆで卵、そして今の時代残す人も多いであろうなるとも絶対に姿を消さない。
スープは甘からず、しょっぱからずの最適化されたしょう油味で、ある意味特長がないところが最大級特長になっているストレート直球ど真ん中。このスタンダードは時代が右に行こうが左に行こうが常に唯我独尊。

逆に麺は一見普通に見えるが、味も食感も独特。
駅構内を考えて、茹で上がりが早い粉を選別していると思われ、かんすいの加減がこの独特さを生んでいると思われる。

以前はちょうど真向かいのこの位置に店構えがあったはず。
何故に場所が移動されたかはわからない。

もう東武伊勢崎線の名称はない。
イノベーションされ、今はスカイツリー線。
つまり、地盤の鉄道名でさえ革新されているのに「、
脅威のロングテール。
イノベーションがマーケティングの旗頭みたいになっているが、本当はロングテールを生み出す意思がそこになかったらそれは虚飾に過ぎない。
西新井らーめんは駅構内ラーメン専門店という革新的な登場をし、そして45年その姿を普遍的に変えない、マーケターが忘れてはならない目指すべき手本だ。
売れるではなく、「愛される」事柄こそ真のロングテールだと思う。