
「俗世間」というのがあるが、それがどこを指し、何を意味するのかまでは正直解らない。
けれど、俗世間を離れたいとみんなが思うし、そんな気持ちを少しでも持たせてくれる場所があるのなら往ってみたいと誰しも思うだろう。
人混みの軽井沢中心地から少し離れた場所に「Coffee House Shaker」はある。
中軽井沢駅からさほど離れてはいないが、表通りに面してはいないのでこの看板が目に入らなければいき過ぎてしまう。


外国人の避暑地に由来する軽井沢であるから、洋館の造りがとても似合う。
全くの偶然ではあるが、この日入れ違いで立ち寄っていたのが高橋幸宏さん。

木漏れ日がとても似合う。
私は朝の強い光が大好きだが、時にこの木漏れ日の時間にめぐり合えるのも好きだ。

柔らかい西陽が部屋に差し込んでいる。



「シェーカー」とはプロテスタントの流れを汲む英国におけるクエーカー教に端を発し、19世紀アメリカにたどり着いた工場労働者たちの信奉した教団だ。
規律と労働を重んじ、調和と簡素に機能美を求め、自給自足の生活の中に生まれた家具をシェーカースタイルという。
そのシンプルな美しさに日本でも一部の熱狂的なインテリアファンがいる。

この店名はそれに由来する。

特に「シェーカーストレートチェア」と呼ばれるハイバックチェアは、極力装飾を省きそれでいて無味無実にはならない生活への潤いを感じさせてくれる、細身ではあるが強度を保つ工夫、シンプルとはいえ時間をかけて作られた円柱のパーツなど、「シンプル」の一言では片付けられない、まさしく無駄と安直がとびかう俗世間へのアンチテーゼの象徴のようだ。
よく見ると、木工部分と座面の部分のテイストが異なる。これはおそらく木工は男性が、座面の編み物は女性が担当したのだろう。
その融合は男女が共同体として暮らすシェーカー教徒らしい。

シェーカースタイルに欠かせないものがもう一つ。
それが「シェーカーペグ」といわれるフックの付いた梁=ペグレールだ。
日用品や干草を掛けるのはもちろん、使わないときのストレートチェアをかけたりもするといわれる。

オーナーの黒澤さん=クロちゃんは、この家を自分で完成させてしまったというから驚きだ。

見事な洋館。
シンメトリーのファサード、上げ下げ窓、40 度くらいの緩やかな腰折れ屋根などはレンガや土壁を多用した欧州のそれではなく、いかにもアーリーアメリカンのジョージア様式がここにある。
お店だけではなく2階は自宅であり生活の拠点。




旧軽などの喧騒とうって変わって、ここでは時間が止まっているかのよう。




この日訪れた時はもう夕方に近くになり始めていたが、実は自身の昼食も終えていないので、店に入るや否や食事をお願いすることにした。

早朝からの取材に明け暮れまったく何も食べていなかったこともあり、軽食ではなく食事としてのカレーを頼んだ。

シェーカーのカレーはトマトの酸味が強く、具材を含めてよく煮込まれたミネストローネのような感覚。
20穀米とともにフェミニンな装いだ。

その後、コーヒーを淹れて貰う。
「酸味と、コクとどちらがいいですか?」とクロちゃん。
迷わずこの日は酸味を。
以前は酸味が極力少なく苦味の強いマンデリンを好んでいたけど、ここ10年むしろ酸味のある珈琲に傾倒している。

クロちゃんは、時期にも拠るが、毎日釣りをするという。
毎日とは本当に毎日だ。
シェーカーでお客さんに珈琲を飲んでもらい、そして仕事終わりには必ず釣りに行く。
そのシンプルでレギュラリーな毎日は、どこかシェーカー教徒たちの暮らしぶりに似ているかもしれない。
そういうライフスタイルを持っていなければシェーカーの家具のよさをちゃんと理解することは出来ないのだろう。
我々がそうでなかったとしても、それを理解し具現化した人が創った空間に足を踏み入れれば、不思議なものでそこにいる限り同質化することが出来る。
クロちゃんの生活を「俗世間を離れて・・」と形容したら本人はきっと納得しないと思うが、
ここに訪れる人はなにかここで、「俗世間を離れた」かのように、自分の時計の針の進め方を遅らせに来ているのだと思う。

そしてもうひとつ。
ここにはどうも人が集まる何かがあるようだ。
シェーカー教徒の暮らしぶりに中には、ミーティング・ハウスというものがあるらしい。
その中心にこれらの家具がある。
この家具が持つ壁を感じさせないオープンエアな雰囲気は、デザインのどこにも「囲い込み」がないことに起因しているからではないだろうか。
通常喫茶店でありコーヒーハウスは、どこかに個別空間があるものだが、「シェーカー」には余りそれを感じることがない。
まるで図書館のように、人の出入りすらも気にもならない。
別に見ず知らずの人と無理やり友達になる必要はないが、穏やかな老若男女がそこで一緒の時を、壁なく過ごしているというのいいことだ。
それこそ見えない壁に何重も覆われた俗世間から逃れた甲斐があろうというものだ。



どうだろう、そう難しいことではなく、もし軽井沢のにぎやかさがちょっとだけ鼻につくときがあったなら、このシェーカーに駆け込んでみては。
きっと、少しだけ針の進み方が遅れると思う。
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