本日10月7日、松原みきさんの命日。
ちょうど10年前の2004年に子宮頸がんにより逝去。
私の大好きなシンガー。
その代表曲は「真夜中のドア ~Stay with me」
極めて勝手なことをいえば、歌謡史(何が歌謡曲でそうでないかはこの際別にして)の中にあって、
この曲がリリースされ、メロディライン、歌声、アレンジ、演奏、そのどれもを初めて聴いた時の衝撃は今も変わらない。
三浦 徳子(水色の雨、キャッツアイなどでも知られる)の詞が実にいい。
「グレーのジャケットに 見覚えがある コーヒーの滲み・・」
「寂しさ紛らわして 置いたレコードの針 同じメロディ 繰り返していた」
「あの季節が今目の前・・」その季節はまさにこれからのような気がするのは何かの因縁なのか。
林哲司作曲、なんという都会的なメロディ。
伸びやかな、そして物悲しさを煽るサビ。
もう何度聴いたかわからないし、何度聞いても色あせることを知らないのはこの曲以外見つけようにも見つけられない。
いわゆるツウにウケるシンガー。
その当時は分らなかったけれど、この曲の衝撃を確実なものにしていたのはその素晴らしい演奏だった。
後藤次利のベースライン、正確無比な林立夫のドラム、そして松原正樹のギター。
当時の黄金のスタジオミュージシャン3人。
このときにはまだ「パラシュート」と自分も出逢っていなかったので、林立夫、松原正樹の演奏であることも当然知らなかった。
歌謡曲では1万曲ともいわれ、ということは歌謡曲黄金時のヒット曲のギターラインはほとんど松原正樹であったといってもよいくらい。
例えば、「長い夜」「六本木純情派」のイントロ、「恋人はサンタクロース」「渚のバルコニー」のバッキング、そして極めつけというかその存在が特別なのを示すのは、キャンディーズ「微笑がえし」、山口百恵「さよならの向こう側」という昭和の大アイドルの引退曲を任されているということ。
しかしそれでも松原正樹の白眉のギタープレイは絶対にこの「真夜中のドア」のバッキングとエンディングソロだと思う。
25年ライブも35年ライブも松原正樹自身の曲を何度も聴いたけど、この曲こそその松原節を遠慮なく表現したスタジオミュージシャン時代の最高のプレイだと思う。
押し引きを心得て左右に分けてカッティングをいれ曲全体をまとめながらも、335の伸びやかな音質でフェードアウト寸前にだけ魅せるドラマティックなソロフレーズ、
これぞスタジオミュージシャンがやっていいことの限界点といってもいいくらいのパーフェクトさ。
アレンジャーも林哲司。ストリングスの持ってきかた、ホーンセクションの押さえ方、フェンダーローズの響き、どれをとってもこの当時の最高峰のまとめ方、いやむしろ今は打ち込み抜きでこういうサウンドが作れないのだから、どれだけの感性があったのか・・。
「悲しみが止まらない」「二人の夏物語」も林哲司によるもので、やはりその都会的なセンスが伺える。
この曲はとても完成度が高く、そして難しい曲だといわれる。
そんな松原みきが、実際に世に出たのはこの時代の一つの花形でもある化粧品CM。
これも松原正樹のギターであるのはすぐに分る。
そして・・・
後にこのアルバムを知って驚いた。
このアルバム「Cool Cut」のプロデューザーが森園勝敏だと知って。
森園研究家?の自分にとって、歌謡シンガーをプロデュースをするなんて夢にもおもっていなかったが、
当時、森園自身がリリースした「4:17pm」を購入し、このアルバムを理解するのにかなりの時間を要した。
(本人は否定的だが)プログレッシブロックの雄「四人囃子」で始まり、その後フュージョン系ギタリストとして活躍した人が、
そこで「Cool Cut」を聴くと、明らかに「4:17pm」と共通点が多く、梅本洋一の詞、ミュージシャンも松浦和義であることなどがそれだ。
ところで、「4:17pm」では抑え気味のギタープレイがなぜか他人のこのアルバムではやたら炸裂しているのだから不思議。
自分の曲以上に?乗っていて、ジョニー吉永とやったときのノリにも似ている弾け方。
話が森園に行ってしまったが、とにかく自分の好きなギタリスト二人が松原みきとかかわっているということがすごく嬉しい。
ちなみにこの「Cool Cut」の次のアルバムは向谷実が担当し、ミュージシャンもカシオペアの面々が担当したり、松原みきが如何に実力者たちと相まみえることが出来る女性シンガーだという証でもある。
とにかく早すぎた。
こんな才能ある実力シンガーが病で逝ってしまうなんて。
今日このブログを書きながらも「真夜中のドア」を50回は聴いただろう。
この1日が終わるまでもっと聴いているかもしれない。
「寂しさ紛らわして 置いたレコードの針 同じメロディ 繰り返していた」