その難しさをたった一人で、いやたった一人だからこそやり抜いている、そんな人がいます。そしてそれがこの一杯に集約されています。
この店の特徴は「揚げねぎ」。
ご主人にお話を聞いたところやはり喜楽にて修行を積まれたそうです。ということはお店で何度もすれ違っているわけだ・・・
そう、このインターフェイス、これは間違いなく「喜楽」の血を引く”顔”です。揚げねぎはもちろん、半熟ではないが味がしっかり入った煮玉子、そしてもやし。間違えありません。
この揚げねぎ、ねぎというから長ネギを想像しがちですが、実はエシャロットとのブレンド。これが独特の甘味と香りを引き出しており、スープの輪郭を何倍にも増幅してくれています。
まったくと言っていいほどコビの無い店主は、ぶっきらぼうとかではありませんが愛想は決してなく、でも人当たりが悪いわけではありません。そういうことに振り向けるパワーを内面で使っているようで、とにかく一杯一杯を作ることに集中しています。器は必ず温め、チャーシューは注文を受けない限り切りません。これをどんなに忙しいときもどんなににヒマなときも常に一定のペースで成し遂げます。
この店のもうひとつの看板はこの「もやしメン」。
この「もやし」は”料理”です。トッピングなんかではありません。
店主によってしっかり料理されない限りカタチになりません。それもいついかなるときも高レベルのもやし炒めが麺に乗ります。
だいたい多くのもやしを乗せたラーメンは、食べ進むうちにもやしが柔らかくなってしまうのが常ですが、ここのは最後までシャキシャキ感が失われません。それは強力な火でもやしに薄い油の膜が高速コーティングされるから。だから”料理”なのです。
ここで使われる麺だけは喜楽の平打ち麺とは異なり、中太縮れ麺。下町の某著名製麺所への発注。
ワンタンメンも喜楽の血筋をちゃんと受け継いで大変美味しい。
矢沢永吉の名曲に「この人に賭ける」というフレーズがありますが、まさに一杯一杯に賭けている感じ。しかも極めてクールに。
いつかこの場所を離れるでしょう。そして借り物の「支那そばや」の器も卒業するでしょう。その日はきっとやってくると思います。手を抜くことを知らないラーメン職人に必ず次のステージが待っているはず!